続・祈りのいらない世界で
「おい。そんなに頭痛いのか?」

「…動くと痛い…。吐いてる時は…割れそうに痛いっ…」



しゃがみ込んでいるキヨを抱き上げると、イノリはキヨが泣いている事に気付く。




「お前、痩せた?すっげぇ軽くなってるけど…」

「……食べても吐いちゃうから…かな?」



イノリはキヨをリビングに運ぶとソファに座らせる。




「泣くなよ」

「…だって…辛いんだもん!!もうやだ。頭痛いし…眩暈するし…イノリいないし…ぃ〜」

「俺はここにいんだろ」

「そうじゃなくてさぁ〜……」



小さく声を漏らしながら泣くキヨ。

イノリはキヨを膝の上に乗せるとギュッと抱き締めた。




「なんで夫婦なのに、妊娠の苦しみは分け合えないんだろうな。…なんで美月だけなんだよ」

「イノリ?」

「…俺が…変わってやりたい」



男性には味わうことの出来ない苦しみ、辛さ。


それを1人で背負っているキヨの気持ちを理解してあげられない事が、イノリにとって苦痛だった。




「…ふふっ。イノリが妊娠したって産めないでしょ」

「ケツから産める」

「汚いなぁ…」



さりげないイノリの優しさを感じたキヨは、少し元気になった。




「大丈夫。子どもの為だもの。我慢出来るよ」



つわりに負けていたら、出産なんか出来ない。


そう思ったキヨは、もっと強くならないとと決心した。




「我慢はするな。辛い時は辛いって言え。…寂しいなら、いつものように俺に甘えればいい」



イノリはキヨの頭を自分の胸に引き寄せると、優しく髪を撫でた。

イノリの心臓の音が聞こえる。
< 223 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop