続・祈りのいらない世界で
「フウが美月を母親だと思っちまうのは仕方ねぇよ。カンナより一緒にいる時間が長ぇんだからな」


「でもいいのかな。カンナが元に戻ってフウと接する時、フウがカンナをママだと思わなかったらカンナ、傷付くんじゃないかな?」


「自業自得だろ」




イノリはそう言うと、キヨが持って帰ってきたビデオをセットした。


静かなリビングに響く心音。



キヨはテレビに映るエコー映像を見るイノリを見つめていた。




「…ふっ。ふふふふ…」

「あ?何で笑ってんだよ」

「だってイノリっ…泣いてる」



涙目になっているイノリを見て笑うキヨ。


イノリは顔を赤く染めると、笑っているキヨの頬を摘んだ。




「笑うな!!」

「ふふっ。だってイノリが泣くのって滅多に見ないから」

「お前はよく泣くけどな」



イノリはフッと微笑むと、少し膨らんできたキヨのお腹を撫でた。




「…本当に父親になったんだな、俺。やっと実感した気がするよ」

「え?今更!?遅くない!?」

「仕方ねぇだろ。俺の腹ん中にいるワケじゃねぇんだから」



そっか…。と納得するキヨ。




「今触ってるのはお父さんだよ。わかるかな?」



キヨはお腹に話し掛けながら微笑んでいた。




「あなたのパパはね、怒りんぼだし、口悪いし寝癖だらけだけど…。本当はね、誰よりも強くて優しい、カッコいいパパなんだよ♪」



そう言ってイノリにニンマリと笑いかけるキヨ。




「お前の母ちゃんは泣き虫で拗ねんぼのガキみてぇな奴だから、遊び相手にはもってこいだ。よかったな」


「酷い!私は誉めてあげたのに!!」



イノリの言葉に口を尖らせるキヨの唇にキスをするイノリ。




「…可愛いって意味のほめ言葉だ。わかれ」





授かった命を見たことで親としての自覚を持てたイノリとキヨ。



2人が親らしくなっていくのと同時に

小さな命も1人の人間としてゆっくりと育っていく。




その僅か10ヵ月の歳月は短くも愛しい時間なのだと思った。
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