続・祈りのいらない世界で
「…あのね、イノリ。さっきね…お腹動いたの。ポコッと…小さく動いたの…。イノリにも聞かせてあげたかったよ」


「美月…」



唇を噛み締めながらポロポロと涙を流すキヨ。




何に怒っていたのか
何が悲しいのか

それさえもわからなくなってきた。




「…美月。甘えろ。母親になったからって変に大人びる必要はねぇよ。
辛いなら弱音を吐け、悲しいなら泣け、寂しいなら甘えろ。お前には俺がいるだろ」



勢いよく頷くキヨの額にキスをするイノリ。




「ダメだ、止まらねぇ。お前はデコにキスすると泣き止むのに。…参ったな」



泣き止まないキヨを見て焦るイノリ。

そんなイノリの姿が可笑しくて、キヨは笑った。




「…笑いながら泣くなよ」

「嬉しいから泣くんだよ」

「嬉しいのに何で泣く?面倒くせぇヤツだな」



嬉しくても泣くのは、それだけイノリが好きだって事だよ。

悔しいから教えてあげないけど。



キヨはそんな事を思いながら、笑っていた。







苛ついたり
傷付いたり
辛かったり悲しかったり



その感情を自分の中だけで抑えきれなくても


受け止めてくれる人がいる事を改めて感じられた出来事だった。
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