続・祈りのいらない世界で
「お前は染める必要なんかねぇ!!ったく、汚ねぇオッサンの手でキヨの髪に触りやがって。テメェが先公じゃなかったらぶっ殺してたぞ」



イノリは教師を突き飛ばすと、教官室の壁を殴った。




「なんなんだ、今年の1年は!!茶髪だったり暴力的だったり…最悪だな」

「あぁ?だからキヨは地毛だって言ってんだろ!?テメェはバカか」



イノリがもの凄い形相で教師に近付くと教師は後退りする。

すると、ドアの方から声が聞こえた。




「イノリやめなさい」



キヨとイノリが後ろを振り向くと、教官室のドアの前にカゼとカンナ、そしてケンが立っていた。



「えっ…!?みんなどうしたの?その髪…」



キヨの目に映ったのは、黒髪に金のメッシュを入れたカゼ、脱色したのか綺麗な金髪のカンナ、そしてオレンジ色に近い茶髪になったケンだった。


染め立てなのがわかる程3人の髪は濡れている。




「先生?染めたって言うのはこういう髪の事を言うんですよ。これに比べたらキヨの髪なんて可愛い地毛にしか見えないわ」



丁寧な口調だが、威圧感のあるカンナに息を呑む教師。




「………キヨを怒る前に俺を怒ればいい」

「そーだ、そーだ!!集団でキヨをイジメるなんて教師失格だ!!」



ケンはカゼに隠れながら教師に文句を吐く。




「お…お前らっ!!そんな髪にしてただで済むと思ってんのか!?」

「どうぞ処分なら好きにして下さい。私達は先生達がキヨの地毛を認めるまでこのままでいますから」

「………帰ろう」



あっけらかんとしているカンナ達を、教師達はただ呆然と見つめていた。




「イノリ、壁殴ってたけど手痛くない?」

「あ?俺、壁なんか殴ったか?」

「え!?無意識だったの?」



キヨがイノリの手を見ると、拳から少し血が出ていた。

キヨは血が出ているイノリの手にタオルを巻く。




「…ありがとう、イノリ。嬉しかったよ」

「礼なんかいらねぇ。お前を泣かせていいのは俺だけだ。だから気に食わなかったんだよ」



イノリはポンポンとキヨの頭を撫でる。
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