続・祈りのいらない世界で
19・幸せのお裾分け
もし大切な人達に
自分の幸せを分けてあげられるのなら
私は迷わず差し出す。
それで全てが上手くいくなら
何も惜しまない。
「キヨ、何か手伝う事ない?」
キヨが台所で夕飯の支度をしていると、仕事が休みで家にいるケンがやって来た。
「大丈夫だよ。ケンはフウと遊んでてあげて」
「フウは教育テレビに夢中だから俺に構ってくれないんだよ〜」
少し拗ねているケンを横目にリビングを覗くと、フウはテレビの前で椅子に座っている。
「フウはいい子だよね。大人しいし、1人で遊ぶし」
「まぁな。カゼとカンナの子だもん。手は掛からないよ」
「ケンに似なくてよかったよね。ケンに似たらバカだし騒がしいしで私、1人じゃ面倒見れないよ」
「キヨ…最近イノリに似てきたね。あの純粋なキヨはどこ行った〜」
唸るケンに笑いながら、キヨは今日の夕食であるお鍋の下拵えの続きを始めた。
「今日は鍋なの?」
「うん。最近冷えるから。お鍋なら簡単だし沢山作れるからね」
鍋の具材である野菜を洗っていたキヨは、昔5人で鍋をした時の事を思い出した。
「鍋って言えばさぁ、まだ上京したての頃、5人で闇鍋したよね」
「あー…したねぇ。ただ部屋を暗くして食べるだけだと思ってたのに、カゼが鍋らしからぬ食材入れたんだよな」
上京して初めて迎えた冬の日。
リビングのテーブルに置かれた空っぽの土鍋とコンロを眺めている5人。
「鍋って言ったら水炊きでしょ」
「えーっ!!俺、キムチがいい。キヨ、水炊きなんて味気ないよ?絶対キムチ鍋がいいって」
「ケンはキムチ、キムチうるせぇな。そんなにキムチ食いてぇなら1人で食ってろ。…鍋って言ったらすき焼きだろ」
「イノリ、すき焼きって鍋じゃなくない?いっぱい野菜取れるし、今日はちゃんこ鍋にしましょう」
何の鍋にするかで言い争う4人。
食べられれば何でもいいカゼは、お湯がブクブクと沸騰している鍋を眺めていた。