続・祈りのいらない世界で
「あの鍋は最悪だったよな。今でも思い出すと吐きそう…」

「ねっ。カゼは何でも食べちゃうから平気で食べてたけどね」



キヨは笑うと土鍋に火をかけた。




「…何かさ俺、イノリがキヨを突き放してたのとか、この家から出て行ったのってキヨのお姉さんの事だけじゃなかった気がするんだよね」


「ん?どういう事?」


「だってさ、キヨのお姉さんの事があっても何年もキヨといたワケじゃん?まぁタイミングってやつだったのかもしれないけど」



少し沈んだ表情をしながら昔の話をし始めるケン。




「イノリがキヨから身を引いたのは、俺の為だったんじゃないのかなって最近思うんだよね。

カンナとカゼがくっついて、キヨとイノリがくっついたら俺仲間外れになるじゃん?イノリはそれを気にしてくれたのかなって思って。あいつ、そういう所あるから」



ケンは長ネギを手にとるとプラプラと振る。




「なんだかんだで優しいもんね、イノリって」

「うん。…でもイノリは独占欲が強いからそんなワケないか」



ケンは長ネギでキヨを突つくと、俯いた。




生き甲斐であったであろうバンドを辞めてから、少し元気がないケン。


キヨはそんなケンの様子に気付いていた。




「…ねぇケン。昔話したついでにもう1つ昔話していい?」


「うん。いいよ、何?」


「私ね、ケンが私の為に作ってくれた『MITSUKI』って歌がもう一度聴きたいな。…だから歌ってくれる?」


「キヨ…」



キヨがケンにニッコリ微笑むと、ケンもニンマリ微笑んだ。
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