続・祈りのいらない世界で

22・君の為に出来ること

ある日、キヨは病院にいた。

産婦人科にいるワケではなく、普通の総合病院にいるキヨ。



「中指の腱が切れてしまっているので、今手術をしている外科医の手術が終わり次第、時間を決めて本日手術します」


「手術ですか…」


「はい。全身麻酔で手術しますので1日だけ入院になりますね。奥様、こちらの手術と入院の承諾書にご記入願います」



医師からプリントを手渡されたキヨは、視線を診察台に移した。



キヨの目に映ったのは寝台に寝そべって応急処置を受けているイノリ。



イノリの左手は血が滲み、指先が青くなっている。


着ているYシャツには生々しい血が所々に飛び散っていた。



処置を受けているイノリは痛そうに顔をしかめている。




イノリが喧嘩をする所は何度か見た事のあるキヨだが、イノリ自身がケガをして痛がってる姿は滅多に見ない為、少し動揺していた。




「止血はしましたので、手術の時間まで病室で待機していて下さい」



医師に促されたキヨは、応急処置を受けたイノリと共に入院する病室へと移動した。




「本当にビックリしたんだからね。珍しく仕事中にイノリの携帯から電話が掛かってきたと思ったら、女の人の声がするんだもん。しかも凄い深刻そうな声で」


「会社で資料室にいた時、山積みの資料が落ちてきたんだよ。その時何かで切ったみたいで、出血がすげぇからみんなビビってたんだ」


「イノリ、左手が利き手だから不便だね。右手全く使えないでしょ?」


「…箸は使えねぇな」


「それは私があーんしてあげるから大丈夫だよ♪」



楽しそうなキヨとは裏腹、イノリは不機嫌そうな顔をしながらベッドに寝そべった。


傷が痛むのか、苦しそうな息を漏らす。




「痛いの?」

「…いや…」



話し掛けるなと言っているようなオーラを放つイノリ。
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