続・祈りのいらない世界で
「痛くなったら我慢しないでね。何も出来ないけど1人で苦しまないで」


「大丈夫。お前も風邪引かないように早く寝ろよ。腹のガキも休ませてやれ」



キヨはコクっと頷くと、名残惜しそうにイノリの部屋から出て行った。




まだイノリに片思いしていた時

イノリが見せた弱さに戸惑うだけしか出来なかった自分はもういない。



今は全てを受け止められる。




いつの間にか強くなっていた自分に気付いたキヨは、イノリの為にもっと何かが出来ないか考えを巡らせた。



愛する人の為に何かをしてあげたいと思う事が、こんなにも自分を強くする。


そう気付いた。







2日後。

休養を経て会社に向かう支度をしているイノリ。



キヨは利き手が使えないイノリが果たして1人で会社に向かい、仕事が出来るのか心配になりながらイノリのネクタイを結んでいた。




「…今日は引っ付いて来ねぇんだな。介護疲れでもしたか?」



いつもならイノリを仕事に行かせまいと抱き付くキヨだが、今日は大人しく立っているだけ。




「イノリが嫌がるからだよ。だから甘えるの我慢してるの」

「嫌がってはねぇけどな。ただ遅刻するってだけで」

「なんだかんだで私が甘えないの寂しいんだ?じゃあ抱き付く♪」



キヨがニンマリ笑いながらイノリに手を広げると、イノリも手を広げる。



するとキヨは何かに気付き、キッチンへと走っていった。



イノリは行き場のない手を広げたまま首を傾げる。
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