続・祈りのいらない世界で
「…美月ちゃん、私ね、実は不妊症だったの。祈を妊娠するまで、全然妊娠出来なくて不妊治療を受けてたのよ」



イノリの母はキヨに自分の過去について話し始めた。




「だから、美月ちゃんや風ちゃんは上に兄弟がいるから、両親とはあまり歳は変わらないけど、かんなちゃんと健斗ちゃんは祈と同じ一人っ子なのに、かんなちゃん達の両親より老けててね。

だからみんなに祭ちゃんって呼んでって言ってバカみたいよね。


でもね、だからこそ祈を妊娠した時、涙が止まらないほど嬉しかったの。…まぁ、子育ての仕方を間違えたのか、あんな暴君に育っちゃったけど」



自嘲気味に笑うイノリの母がキヨを見ると、キヨは泣いていた。




「祭ちゃん…ありがとう。イノリを生んでくれてありがとう。祭ちゃんが沢山頑張ってくれたから、私はイノリと出会えたんだよ。本当にありがとう…」



ゴシゴシと目元を擦るキヨをイノリの母は抱き締めた。




「もうっ!!本当に美月ちゃんは可愛いんだから。……私こそありがとう。息子を愛してくれて。

あの子は見る目だけはあったみたいね」



抱きしめ合いながら笑うキヨとイノリの母。





祭ちゃん、本当だよ。

イノリはこの世に1人しか存在しない。



もしこの世がイノリのいない世界だったら

私は心からこんなに誰かを愛せる事なんて知らずに生きていた。



イノリを生めるのは祭ちゃんしかいないから

本当に感謝してるんだよ。







イノリはキヨの父の気持ちを
キヨはイノリの母の気持ちを


普段知れるようで知ることの出来ない親の心を知れた気がした。
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