続・祈りのいらない世界で
「祭ちゃん、私ね、赤ちゃん生むのが楽しみである分、恐いんだ」


「恐い?」


「うん。予定日が近づけば近づく程、恐い。

痛いのかなとか、その痛みに耐えられるのかなとか…。鼻からスイカが出る痛みってよく言うでしょ?私、鼻からスイカなんて出せないよ」



誰も鼻からスイカなど出せるワケがない。



それでも…

どんなに痛みに弱い人でも体の弱い人でも

みんな子供を生んでいる。




だから大丈夫だと自分に言い聞かせているキヨだが、体験した事のない痛みを想像すると恐くて仕方なかったのだ。




「大丈夫よ。女の体はね、痛みに強いの。私だって痛いのは嫌いだったけど、こうしてちゃんと祈を生んだのだから。
出産は痛いのは一時的で、痛いより苦しいって感じだったかな。

それにね、出産の痛みはただ痛いだけじゃないのよ。痛みの後に、この世で1番素敵なプレゼントが貰えるのだから」



痛みを乗り越えた後の素敵なプレゼント。


それは愛する人との愛の結晶である我が子。



そのプレゼントと出会う為のほんの何時間かの暫しの苦しみ。

ただそれだけ。




キヨは義母に悩みを打ち明けてよかったと思った。




義母との会話を楽しんでいたキヨがふと時計を見ると、時計の針はもうすぐ0時を指す所だった。
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