続・祈りのいらない世界で
「ケン。パンクなんか歌ってて喉痛くないの?」

「うん!パンクロックは俺の魂の叫びだからね」



キヨは自室のベッドに座りギターを弾いているケンの口を手でこじ開けると、スプレータイプの喉の薬を塗った。




「ギター兼ボーカルなんだから、喉も大切にね?」

「サンキュー♪」



大学に通い、バイトもしながらバンド活動をしているケン。



そんなケンが、イノリと離れ傷心のキヨにもう一度あの歌を唄ってくれた時、キヨは歌のタイトルを聞いた。



「作詞作曲はKento Kawatori。タイトルは“MITSUKI”」




それからもバンド活動を続け、やっと長年の夢が掴めそうになった大学の卒業が決まった直後…


ケンは夢を諦めた。





「俺、カゼとカンナの子どもをカンナと一緒に育てるよ。…カゼの為にも」



ケンはカゼが亡くなってカンナがカゼとの子どもを妊娠した事を知ると


何もかもを捨て、カゼとカンナの子どもを育てると決めたのだった。





夢よりも友情を選んだケン。



夢を諦める事がどれほど辛いのかキヨには分からないけど

キヨは1つ気がついた。




「私ねケンの事、女々しいと思ってたんだ。…でもケンは女々しくなんかなかった。誰よりも周りを見ていて優しくて、強いんだよね」


「ありがとう、キヨ」




女々しく見えるのは優し過ぎるから。

バカみたいに明るいのは私達を笑顔にする為。




ケンは小さい頃から、ちゃんと自分を持っていた。




あんなに楽器で溢れていたケンの部屋は、すっかり殺風景になってしまった。



でも、相棒のギターだけは今も大切に部屋の傍らに置かれている。



ケンの歴史や愛情、沢山の夢が詰まったギター。




今は静かにケースの中で眠っているだけだけど

きっといつかまた…。
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