続・祈りのいらない世界で

27・声のない愛してる


今思えば

“愛してる”って

口にして伝えた事なんか数えきれる程しかなかった。




後悔するくらいなら

もっとちゃんと、伝えればよかったよ…。








「イノリ…。陣痛…来た」



日付は4月13日になる少し前の23時過ぎ。


まだ波はあるもののキヨのお腹に陣痛がやって来た。



「大丈夫か?」

「…うん。2時間くらい前におしるしがあって。でも前駆陣痛っていうのかな。まだ痛みの間隔はバラバラなの」

「そうか。…でも一応産院に電話するぞ」



イノリは産院に電話を掛け、主治医にキヨの様子を伝えた。


主治医の指示に従い、暫く自宅で様子を見た後、イノリとキヨは病院へと向かった。




病院に着くとキヨは個室に案内され、助産婦に状況を伝えた。


イノリは他の看護士と入院について話をしている。




「痛みの間隔が規則正しくなってきたら、お産の始まりの合図ですよ」


「…はい」


「陣痛は確かに痛いけど、赤ちゃんに会いたいと待ちわびた10ヶ月間に比べたらあっという間です。そのあっという間の時間が終われば赤ちゃんに会えますから、頑張りましょうね」



優しい助産婦の言葉に励まされたキヨは、助産婦のアドバイスの元、イノリと共に体を動かし始めた。




「いっ…!」


次第に少しずつ間隔が短くなっていく陣痛。


しかし、まだ産まれる気配はない。



「破水もしてますし、陣痛も規則的に来ているんですが、子宮口が中々開きませんね」



歯を食いしばっているキヨの腰をマッサージしている助産婦。
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