続・祈りのいらない世界で
その日の夜。



「たでーま」

「おかえっ…!」



仕事から帰ってきたイノリは『おかえり』と言おうとしたケンの口を手で塞いだ。



「だーかーら!何度も言ってんだろ。お前が一番におかえりって言うな」



イノリはケンから手を離すとリビングへ足を運んだ。


リビングには床に座って洗濯を畳むキヨがいる。



イノリは後ろからキヨを抱きしめた。



「わっ!ビックリしたぁ。おかえり、イノリ」

「…ただいま。ただいまっ…」



抱きしめてくれているイノリの腕にキヨは手を添えた。


久しぶりに交わす『ただいま』と『おかえり』を愛しく思った。




「…美月、もう一回言って。おかえりって」

「おかえりなさい、イノリ」

「ただいま」




愛してるって…

その存在を当たり前に感じた瞬間のことを言うんじゃないかな。



付き合い始めや片思いの時みたいに、四六時中は好きと思えなくても


やっぱり他の誰かじゃなくその人がいい

その人じゃなきゃ満たさない

ドキドキはしなくてもホッとする



きっとその気持ちを愛してるっていうんだね。






「……よーちゃん、おっきした」



抱きしめ合ってる2人の元へやって来たフウは、キヨの服を引っ張った。
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