続・祈りのいらない世界で
「散歩にでも行くか。お前に見せたい物がある」

「え?今から?もう10時だよ」

「ツベコベ言うな。行くぞ」



イノリは携帯を手に取ると部屋から出て行った。


キヨは3人を起こさないように、ソッと部屋から出ると家の外へ出た。




玄関の前には自転車に乗ったイノリが待っていた。




「自転車で行くの?」

「東京じゃ車しか乗らねぇからな。地元にいる時くらいいいだろ」

「ふふっ。学校行くみたいだね」



キヨが荷台に座るとイノリは自転車を漕ぎ出した。



中学、高校の6年間を二人乗りで通学していたイノリとキヨ。


あの頃と同じイノリの肩から見える景色が懐かしくて、キヨはあの頃が恋しくなった。




「…イノリ、重くない?私最近太ったからなぁ」

「毎日毎日6年も乗せてたんだ、今更気にならねぇよ」

「ありがとう…イノリ」



キヨはイノリの背中に額を付けた。


自転車が切る風に乗って香る夏の夜の匂いとイノリの匂い。



このまま時を越えて自転車が何処にも到着せずに、走っていればいいと思った。




「おい、しっかり掴まってろよ。坂下るぞ」



山が近い為、坂道が多いキヨ達の地元。


キヨはイノリの腰に腕を回し、ギュッとしがみついた。



イノリは軽くブレーキを掛けながら坂を下る。




「あははは!!速い速―い♪」

「お前は坂下るといっつも笑うよな」



後ろでバタバタ足を振りながら喜ぶキヨに笑いながら、イノリは自転車を走らせた。




2人を乗せた自転車は土手に到着した。



「何だ、土手に来たかったの?じゃああんな遠回りしなくてもよかったんじゃない?」

「ちょっと約束の時間まで時間があったからな」

「約束の時間?」



キヨが首を傾げると、イノリはポケットからひまわりの種を取り出した。
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