続・祈りのいらない世界で
ハッとキヨが我に返ると、イノリは狂気を含んだ瞳でキヨを見ていた。



「…俺が信じられないなら俺を殺せばいい。信じてもらえないくらいなら死んだ方がマシだ…」



イノリは情けなく笑うと俯いた。

瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。





私、知ってるのに…

イノリは強くない


強がってるだけで本当は誰よりも弱くて繊細だってことを。



それなのに…




「ごめんなさい…。感情に任せてイノリを傷つけちゃったね…私、最低」


「美月、俺を信じられなくなったらいつでも殺せばいい。…きっと殺されてもいいと思うこの異常なまでの愛情が、死ぬ程誰かを好きになるってことなんだな…」


「イノリ死んじゃやだ…」




キヨがブンブンと首を振ると、イノリは薄く微笑んだ。




「美月、沙織の事覚えてねぇか?俺らが小学4年の時、お前は沙織に会ってるぞ」



イノリは沙織について話し出した。





それは5人が小学4年生の頃。

夏が来る前に訪れる梅雨の季節。



暑い季節が来る前に大地を潤す雨は、夏を呼ぶ前に波乱を呼んだ。




「イノリっ♪見て見て、歯生えてきた」



梅雨の時期の晴れ間。

いつものようにキヨはイノリの家を訪れた。



「お前、前歯中々生えてこなかったもんな。ようやくマヌケ面から解放されるな」



キヨが嬉しそうに永久歯を見せびらかしていると、2人の元に女の子がやってきた。




「…?イノリ、その子だぁれ?」

「俺より2つ年上のイトコの沙織(さおり)。遊びに来てんだよ」

「へぇ〜。はじめまして、清田美月です。宜しくねっ」



キヨが沙織に笑みを向けると、沙織はキヨを無視しイノリの腕を引っ張った。
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