曖昧ライン
第2回・親友との対話
 酒は飲んでも飲まれるな、とはよくいったものだ。
 まさにその通り。特にうら若き女性諸君は、私は大丈夫〜などと言わずに気を付けて欲しい。何故なら、この私、高橋夏海も、酒に飲まれて失敗をやらかした人間だからだ。



 「夜中にすまないと思ってます律さん!!!」
 中学のときからの親友、高野律に夜中に電話をかけてしまったのは、他でもない優太のことがあったからだ。
 一通り話し終えると、律に、「なんだ……。あまりに深刻そうだったから、その優太って人とセックスまでしたのかと思ったわ。手ぇ繋いだくらいでそんな泣きそうになってるとか中学生でもないわ。ピュアかよ……ピュアっピュアかよ……。」と言われた。
 しかし、しかし、だ。
「私彼氏いるのに〜!」
「まあ微妙なラインだよなぁ。キスされそうになったとかなら、彼氏いるからやめて!ってなるけど、手だろ?酔った夏海を支えるためなんでしょ?それなのに拒否るのもあれだもんね。」
「けど、繋ぎ方が恋人繋ぎだったってのは、なんか、なんか……。というかぁ〜!そもそも6月には律と会おうって言ってたじゃん?そのとき、俊と別れようと思ってるって相談するつもりでいたの〜!」
「なんてタイミングだ。」
「でしょう……。」
私はスマホを握る手に力を込めた。
「6月に別れるつもりだったからこそ、付き合ってもいない人と恋人繋ぎしちゃったり二人で飲む約束したりしてもそこまで罪悪感ないけど、でも、別れるつもりだったとはいえまだ別れないのに、こんな、こんな……!」
「夏海、落ち着け落ち着け。手繋いだとか結構大したことないから!な!」

 池沢俊。私の彼氏。中2の冬から付き合って、今、付き合って5年になる。
 彼は優しくて、お人好しで、とてもいい奴だ。中学のときは一緒にクラス委員もやっていた。しかし、高校生になるとき、私は地元で一番偏差値の高い高校へ、あいつは一番偏差値の低い高校へと進んだのが、私達の運命の岐路だったといっても過言ではない。
 あいつは周りの環境の影響をモロに受けて、あっという間に不真面目というか、頭のネジが一本抜けたような人になってしまったのだ。
 彼は、生でやろうなんて言い出す人じゃなかった。私の親がいないときを狙って家に来て、私を押し倒そうとする人ではなかった。
 私だって、男の子にはそういう時期がある、ということくらい認識していた。しかし、しかし、だ。会う度に股間が膨れ上がっていて、なんだか息が荒くて、私の顔を見た瞬間、「夏海の顔見たら勃っちゃった……。」なんていうあいつを、どうして好きでいられようか。限界だったのである。

「……いや、それは俊が悪い。というか気持ち悪い。」
律がばっさりと言う。
「だよね。正直、好き嫌いというか、なんか、生理的に無理……?」
「もうそれは今すぐ別れなよ……。6月まで待たなくていいよ……。」
「……なんかね、私、浪人したじゃないですか。その間、俊は私を待ってくれてたの。だから、待たせておいてふるなんて、酷いこと……私、」
「相手のこと気持ち悪いって思いながら付き合ってるのも酷いからね。」
「ですね……。」
 律の言うことは最もで、やはり俊には早く別れを言い出さなければ、と思った。
「……で、夏海。」
「うい?」
「好きなの?サークルの人のこと。」
「手繋がれてドキドキはしたけど、好きとかじゃ……。なんか、憧れてるだけだし。」
 友達として仲良くなりたいとは思うけど、キスしたいとかセックスしたいとかそんなことにはならない気がする。
「そう?てっきり好きなのかと。」
「人としては好きだよ。憧れてるくらいだもん。でも、恋愛かって言われたらねー、別よー。」
「そう。ま、取り敢えず俊とは早く別れなさい。」
「うん、そうする。夜中にごめんね、ありがとう。おやすみ。」



 この電話をした翌日に、私の意見はひっくり返る。
< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop