曖昧ライン
飲み屋にて
飲み屋に入ってから、ビールを飲みながら予備校の話をした。
浪人生時代に、私は宮城、彼は東京にいたのだが、同じ全国展開している予備校に通っていたため、会話はなかなか弾んだ。浪人生であること、高校生と大学生の間に1年あいてしまったことに引け目を感じていた私だったが、彼と話すことで、あれも私の人生で大切な1年だった、と思えるようになってきていた。
私だって元々浪人生であることに引け目を感じていたわけではない。多少、初めて同級生と違う歳であることに緊張はしていたけれども、社会に出れば同僚と歳が違うどころか、上司が年下なこともあるし、気にするほどではないと思っていた。
浪人生であることを、大っぴらにする理由もないが、隠すこともないと思っていた。行きたい大学があって、それを目指すことは、何ら恥ずべきことではないと思っていた。
だから、他のサークルの新歓でお酒の話が出たとき、私はさらりと言ってのけたのだ。私、来月になったらお酒飲めるんだ、と。
それから、友人のうち一人の態度が変わった。彼女は何かあると、「歳上なんだから○○してきてよ」と命令じみたことを言うようになった。
挙句の果てには、私が十数人の前で先輩から褒められたとき、「この人一つ歳上なんだから私たちより出来て当然でしょ!だってこの人浪人生だもん!浪人生だもん!」と、私を指さした。私は、友人二人にしか浪人生であることを打ち明けていなかったのに、こんな私を馬鹿にするようなやり口で、よく知らない人にまで自分が浪人生であることを知られてしまった。そもそも人前で誰かに指をさされること自体が初めてで、動揺した。人を指さすという行為は、人を馬鹿にする行為だと私は教えられていた。
私は、何か他人に馬鹿にされるようなことをしたのだろうか。浪人したことがそうなのか?私の選択は他人の目からすれば間違っていた?いや、違う、世の中には浪人生なんてたくさんいて、皆、自分の夢のために、私の、私の夢は、あの大学に、
「おーい、夏海、夏海?」
「え」
「酔ってるな〜。ぼーっとしてたぞ。」
「あー、……うん、ごめん。」
優太に声をかけられて、私は慌てて笑顔を作った。大学に入学して間もなく植え付けられた嫌な記憶を思い出してしまっていた。
目の前で微笑む、黒髪をワックスで少し立たせた眼鏡の青年を見ていると、少し落ち着いてきた。
「謝らなくていいけど、大丈夫?歩ける?」
「ん、大丈夫……。」
言いながら立ち上がろうとすると、体がふらついた。
「あー、ほら、無理しない。今日も送っていってあげるから。」
「うん、……ありがとう。」
この人は、私と同じ。自分の行きたい大学があって、努力を続けた人。私の仲間。ニ浪してる人だから、私よりも強い意志を持って茨の道を選んだ人。
この人といると、私は、落ち着くし、認められている気分になる。
浪人生時代に、私は宮城、彼は東京にいたのだが、同じ全国展開している予備校に通っていたため、会話はなかなか弾んだ。浪人生であること、高校生と大学生の間に1年あいてしまったことに引け目を感じていた私だったが、彼と話すことで、あれも私の人生で大切な1年だった、と思えるようになってきていた。
私だって元々浪人生であることに引け目を感じていたわけではない。多少、初めて同級生と違う歳であることに緊張はしていたけれども、社会に出れば同僚と歳が違うどころか、上司が年下なこともあるし、気にするほどではないと思っていた。
浪人生であることを、大っぴらにする理由もないが、隠すこともないと思っていた。行きたい大学があって、それを目指すことは、何ら恥ずべきことではないと思っていた。
だから、他のサークルの新歓でお酒の話が出たとき、私はさらりと言ってのけたのだ。私、来月になったらお酒飲めるんだ、と。
それから、友人のうち一人の態度が変わった。彼女は何かあると、「歳上なんだから○○してきてよ」と命令じみたことを言うようになった。
挙句の果てには、私が十数人の前で先輩から褒められたとき、「この人一つ歳上なんだから私たちより出来て当然でしょ!だってこの人浪人生だもん!浪人生だもん!」と、私を指さした。私は、友人二人にしか浪人生であることを打ち明けていなかったのに、こんな私を馬鹿にするようなやり口で、よく知らない人にまで自分が浪人生であることを知られてしまった。そもそも人前で誰かに指をさされること自体が初めてで、動揺した。人を指さすという行為は、人を馬鹿にする行為だと私は教えられていた。
私は、何か他人に馬鹿にされるようなことをしたのだろうか。浪人したことがそうなのか?私の選択は他人の目からすれば間違っていた?いや、違う、世の中には浪人生なんてたくさんいて、皆、自分の夢のために、私の、私の夢は、あの大学に、
「おーい、夏海、夏海?」
「え」
「酔ってるな〜。ぼーっとしてたぞ。」
「あー、……うん、ごめん。」
優太に声をかけられて、私は慌てて笑顔を作った。大学に入学して間もなく植え付けられた嫌な記憶を思い出してしまっていた。
目の前で微笑む、黒髪をワックスで少し立たせた眼鏡の青年を見ていると、少し落ち着いてきた。
「謝らなくていいけど、大丈夫?歩ける?」
「ん、大丈夫……。」
言いながら立ち上がろうとすると、体がふらついた。
「あー、ほら、無理しない。今日も送っていってあげるから。」
「うん、……ありがとう。」
この人は、私と同じ。自分の行きたい大学があって、努力を続けた人。私の仲間。ニ浪してる人だから、私よりも強い意志を持って茨の道を選んだ人。
この人といると、私は、落ち着くし、認められている気分になる。