曖昧ライン
 優太の手が私の体に回る。私も、そっと抱き締め返す。とても、愛おしい、と、感じた。離れたくないと、離したくないと思ってしまった。
 お互い無言で抱きしめ合い、お互いの呼吸を感じる。温かい、何も考えられなくなるような幸福な時間。じんわりと染み入るように、ああ、私は優太が好きだ、と思った。
 彼にとってこれが一時の気の迷いだとしても、今、彼の腕の中に私がいることは事実で、私はそれで十分だった。

 何分かそうやって抱き合い、ややあってから、優太が私の首元に頭を埋めた。
「痕、付けちゃ駄目だよな……。」
 首筋に、ちゅ、ちゅ、と軽く唇を落とされ、背中がむずむずとするのを感じた。
「ゆ、優太……?」
「…………っ、」
声をかけると、彼はばっと私から離れた。それからまた、恐る恐る私を抱きしめる。
「駄目だろ、これ以上は、まずいことになる……。」
 なってしまえばいい。
 取り返しのつかないことになれば、彼は私を見てくれるだろうか。

「……まずいことって、どんなこと?」

 言って、彼の目を見る。
 もうそこには、先ほどまでの優しいお兄さんの顔はなかった。

「…………こういう、ことだよ。」

 瞬間、彼の唇が私の唇に触れた。

 
< 6 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop