小さな恋だった
「わあ!日菜お姉ちゃんのお家おっきいねえ!」

自宅に帰宅すると、宮武先輩が大きな声をあげる。

「別に。これぐらいふつうじゃないか」

反対に未だに冬月先輩はまだ不機嫌なようだった。
見た目だけでなく中身まで幼児退行している先輩の相手をするのに、疲れたようにも見えた。

「まあまあ、上がって上がって!」

私は2人を連れてリビングまで行く。2人に冷たいお茶を出して、一息つく。

「着替えてから夕飯つくるから、ちょっと待ってね。制服汚すわけにもいかないし」

「いつも家事はひとりでしてるのか?」

「はい、冬月先輩。両親は海外で仕事していて…今は何処の国だっけな? とにかくあちこちで仕事していて昔から不在がちなんです」

「姉がいるとか言ってなかったか?」

「はい。年の離れた姉がいるんですけど、看護師さんでいつも残業とか休日出勤とかであんまり家にいないんです。今日はたまたま夜勤でいないだけですけど」

私には年の離れた姉がいる。鳥居弓子(トリイ ユミコ)。
鳥居家の遺伝からか背が高く、すらっとしている。
身内の私がいうのもあれだけど、すごく美人だ。
寡黙なひとで、近寄りがたい雰囲気があるけれど、きっと男の人からのアプローチは絶えないんだと思う。
全部断ってそうだけど。
昔から寡黙な姉は少し怖くて、私たち姉妹の仲は人に自慢できるほど良いものではない。

「…大変なんだな」

「ええ、姉は本当に忙しいようで大変みたいです」

「…そういう意味で言ったんじゃない」

「どういう意味ですか?」

「いや、なんでもない。着替えなくていいんか?」

冬月先輩は小さな頭をふるうと、コップに入ったお茶を一気に飲み干した。

「あっそうだった! ちょっと待っててくださいね! 絶対私の部屋に来ないで下さいね!」
「行かねーよ!!」
「日菜お姉ちゃんまたねー。ぼくたち良い子にして待ってるねー」

冬月先輩は何を言いたかったのか気になったけれど、私は着替えに自室に戻った。
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