小さな恋だった
「日菜おねえちゃん!お着替えおわったんだ。うさぎさんのエプロンかわいいね!」
着替えが終わり、リビングに戻ると満面の笑みの宮武先輩が迎えてくれた。
「えへへ、ありがとう。夕飯つくるから、ちょっと待っててね」
「今日のご飯なあに?」
「カレーにしようと思って。玉ねぎとにんじんとじゃがいもが残ってるからね。ルーは中辛しかないけど、牛乳混ぜれば辛いのなんとかなるし」
「俺は辛口でも平気だけど。つーか、見た目が幼いからって俺まで子ども扱いするな! 俺はお前の先輩だ。セ・ン・パ・イ!」
冬月先輩は相も変わらず不機嫌そうだった。声変わりのしていない、子どもの可愛らしい声で怒鳴っても私は全く怖くなかった。
「わあい! ぼく、カレー大好き! どろどろのカレーがすきだな!」
宮武先輩の無邪気に喜ぶ姿をみて、私はふと疑問に思った。
『どろどろのカレーが好き』という"記憶"があるのなら、宮武先輩の幼児時代の記憶が残っているのだろうか?
しかし、宮武先輩は自分自身の記憶がなかった。つまりどこまで記憶が残っていて、どこまでの記憶を失っているのだろう。
私はしゃがみこみ、宮武先輩と視線を合わせゆっくりと質問する。
「ねえ、新君。お父さんとお母さんはどんな人なの?」
「お父さんは怒ると怖いけど、いつも優しいよ! お母さんはもっとやさしくて、だいすき!」
「じゃあ…公園であった女の子覚えてる? 男の子っぽいすがたの、私にそっくりな女の子」
もしかしたら幼児化した宮武先輩なら、私と幼少の頃であったことを覚えているかもしれない。
覚えていてほしい。私の胸は高鳴った。