小さな恋だった
私は、夕方の日が落ちてきた赤色の公園を思い出す。

公園の砂場で一人遊びをしていた。
当時の私はとても男の子っぽい格好をしていた。

お父さんもお母さんも仕事で忙しくて、髪型はいつもショートカットだった。
小さいころから年齢のわりに背が高くて、男の子のような容姿がコンプレックスだった。

友だては女の子らしい小さくてキラキラしたヘアアクセサリーを身に着けていて、いつも羨ましかった。
けど、背が高くて男の子と見間違えられる私が身に着けても似合わないだろうって、幼いながら諦めていた。


本当は小さくてキラキラしたものが大好きだったのに。


ふと影が差し、見上げてみると少し年上そうな、見知らぬ男の子が立っていた。
姿はぼんやりと覚えている。ふわふわとした髪の毛が印象的だった。

「かわいいんだから、もっとかわいくすればいいのに」

夕日のせいか真っ赤な顔をした男の子はそういうと、走り出して、公園から出て行ってしまった。
私に変わる勇気をくれた男の子に、また出会いたかった。"ありがとう"って伝えたかった。

幼すぎる恋心のおかげで私は、女の子らしく、可愛くなれたんだ。

「うーんとね…」

宮武先輩は頭をぐしゃぐしゃとかき乱す。一生懸命思い出そうと頑張っている。

「お友だち、たくさんいるの、ぼく。けど、なんでだろ、全然、おもいだせないの」

宮武先輩は泣き出しそうな声で答えた。
"お父さん"や"お母さん"など、一番大切な人やものは思い出せるけど、それ以外はぼんやりとした記憶のようだ。
私はすごくがっかりしたけれど、それより泣き出しそうな宮武先輩を元気づけなければと思った。
大切なひとやものの記憶がおぼろげなのは、とても悲しいことだと思う。
私が宮武先輩の立場だったら泣いてしまっているかもしれない。
だから、泣くのを我慢しているこの男の子のためにも、元気づけ、はやく元の姿に戻って欲しいと思った。
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