小さな恋だった
ふと凛とした女の子の声が部室に響く。
とても似た顔が二人、部室の入り口に立っていた。鶯世理子と神奈子だ。

「鶯姉妹か。いたなら声ぐらいかけろ」

「そんなにイライラしなくてもいいだろ、冬月先輩。ねえ神奈子」
「そうだね。あの化粧水はオーガニックな素材を使って作ったお肌に安全安心をモットーに作ったものだ。まあ大げさにしなくても、宮武先輩に吐かせれば平気さ」
「あれ飲んでないからそんなに悠長なことを言えるんだろ。宮武先輩は気を失うぐらい、口にするような味じゃないぞ」
「それよりもか弱い女の子をいじめるのが許せないんだけど。日菜ちゃんがかわいそうじゃないか野獣先輩」

世理子はそういうと、私をかばうように冬月先輩の前に来る。
神奈子も同様に神奈子の隣に立つ。

「野獣先輩とはどういう意味だ、鶯姉妹」
「そろそろ見分けがつくようになりなよ、野獣先輩。宮武先輩は野獣先輩と違って繊細だからしょうがないさ。それになんで勝手に日菜ちゃんのタンブラーの中身飲んだんですか? 変態ですか?」

世理子と神奈子は男の人に対しては口が悪くなる。昔からそうだ。

「俺は変態じゃねえ! 部活行く前にのど乾いていたから自販機に買いに行ったが、売り切れだったから部室の冷蔵庫にあった飲み物を飲んだだけだ。名前も書いてなかったし、べっ、べつに鳥居のだって知って飲んだんじゃない」
「世理子、神奈子、ありがとう。でもね、私が不用心にタンブラーの中に入れたのがいけなかったんだよ」

そうだ、リスク管理ができなかった私が悪いんだ。

「だから、喧嘩しないで宮武先輩を助けよう?」

私のせいで宮武先輩がいまだに気を失っている。
私はもう一度宮武先輩の顔を見た。そして異変に気が付いた。

「宮武先輩! 宮武先輩ですかっ!?」

私の動揺した声に驚いたのか、世理子と神奈子も宮武先輩を見た。

「あ」
「おやおやこれは…」
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