小さな恋だった
いや、いなかったのではない。
すぐに冬月先輩の姿を見つけた。
しかし、いつものような不機嫌そうな顔ではなく、さっきより真っ青な顔をしていた。
大きな背もなく、私や世理子や神奈子より小さい。
そう、ちょうど宮武先輩と同じぐらいの身長をした、ちいさな男の子になっていた。
ずるずるとだぶだぶの制服を引きずりながら部室から出ようとした。

「ちょっと待ってください! 冬月先輩。どこいくんですか!」

私は慌てて子どもの冬月先輩を抱っこして、ひきとめる。
あの大きな冬月先輩が私でも抱えられるなんて不思議な気分だ。

「いやちょっと、頭を冷やして現状を把握する必要がある。だから男子トイレに行かせてくれ!」

「高校に小さな子どもがいるのを発見されたら、警察に保護されますよ」

「それもそうか…ってあれ? 宮武先輩は記憶喪失どころか幼児退行しているのになんで俺は平気なんだ?」

「そういえばそうですね、小さな野獣先輩。子どもになるとと憎さ10パーセントオフですね」

神奈子は冬月先輩のほっぺたをひっぱって遊びながら言う。

「いっそのこと、小さな野獣先輩も記憶喪失になってしまえばあれこれ嘘吹き込んだのに、ほんとうに残念だ」

世理子も冬月先輩の反対側のほっぺたをひっぱって遊ぶ。
私はそろそろ冬月先輩を抱えるのに疲れたので、冬月先輩を下した。
「状況を整理すると、宮武先輩と冬月先輩は開発中の化粧水を飲んで幼児化したんですよね、きっと」
「お前のせいでな、鳥居」

「責任転嫁しないでくれますか、小さな野獣先輩?」
「そのお口に本当にチャックしますよ、小さな野獣先輩?」

世理子と神奈子は声をはもらせて言う。

「そこまできつく言わなくても…。とにかく、何故か宮武先輩は記憶喪失と幼児退行していますが、冬月先輩は性格と記憶のの変化はない、ということでよろしいでしょうか。この違いになにか心当たりありますか、冬月先輩?」

「…そうだな。そういえば、俺はすぐにタンブラーの中身を吐きに行ったが、宮武先輩は飲んですぐに倒れたな」

「つまり、タンブラーの中身を飲んだ量によって、記憶と幼児退行の違いがでたんだね。ね、神奈子」

「そうだね、世理子」

鶯姉妹は二人そろってうんうん、とうなずく。

「ねーねーお姉ちゃんたちなんのお話ししてるの? むずかしくてわかんないよー」
私の制服のスカートを軽く引っ張るのは宮武先輩。


「ねえ、宮武先輩と冬月先輩どうする…? この姿じゃ家に帰れないよね?」

「あ」

部員全員の声がはもった瞬間だった。
< 7 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop