小さな恋だった
小さなともだち

「きみの名前はなあに?」

「…冬月雪人。本当に記憶がないんだな」

「うん! 名前も憶えてないんだー。けど、ぼくと年の近い子がいてよかった! 」

「記憶がないのにその楽天的なところはまさに宮武先輩だな」

「ねーねー、"センパイ"ってどういう意味? 雪人くん難しい言葉ばっかりだからわからないよ」

夕方。真夏なのでまだ日が高く、明るい。
幼児になった宮武先輩と冬月先輩は肩を並べて歩く。その後ろに保護者のように私、鳥居日菜がとことこと歩く。
小さな男の子が仲良しそうに話している姿は、きっと事情を知らない人がみたら微笑ましい風景なんだろう。

先輩方が来ている幼児用の洋服は、学校近くのユニクロで買ったものだ。
資金はほとんど世理子と神奈子にだしてもらってしまった。あの二人はなんだかんだいっても、お嬢様育ちなのでおこずかいをたくさんもらっているのだ。
アルバイトができない私と幼児化した冬月先輩はスズメの涙程度のお金しかなかった。

幼児化した宮武先輩と冬月先輩をどうしようか、みんなでとってももめた。
病院にいくか、先生に報告するか。
しかし"病院"というキーワードに宮武先輩が泣きだしてしまった。
そのため両親が海外出張中、年の離れた姉は病院の看護師で夜勤で不在中の私が、今夜は預かることになった。

冬月先輩はラインで家族に「友人の家に泊まる」と送信し、宮武先輩にもなりすまして同様の連絡をしてもらった。
その場しのぎの案ではあったけど、『お泊り会』ときいて、宮武先輩はごきげんになった。

男子高校生の宮武先輩も天真爛漫なところがあったけど、小さな姿になったときの満面の笑顔を見ただけで私たち女子は幸せになれた。

一方、記憶と性格が男子高校生のときのままの冬月先輩は不機嫌そのもので、何度「俺も記憶喪失になれば良かった」と愚痴ったことか。
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