小さな恋だった
でも、幼児化した冬月先輩はいくら不機嫌だと言っても、小さな体に大きな瞳、それに撫でまわしたくなるようなさらさらとした黒髪姿では不機嫌そうにまゆを八の字にした姿すらも可愛い。
もうずっと幼児化してればいいのにと、不謹慎ながら思っている。
そう思っているのは私だけではないようで、部室から出て、校門で解散するまで世理子と神奈子は悪口を言いながらも冬月先輩を撫でまわしていた。
だからこそ、余計冬月先輩は機嫌がわるいんだけど。
「日菜お姉ちゃん、雪人くんがむずかしい言葉ばっかりでわからないよー」
宮武先輩はふと振り向き、困り顔で私に甘える。
「"先輩"は年上の人に使う言葉、かな。宮武先輩」
「でも、僕はお姉ちゃんより小さいから年下だよね?」
より悩むような表情をして私に問いかける。
ちなみに宮武先輩はみんなで名前を教えたので、自分自身の名前が『宮武新』であることは理解しているけれど、それ以外はまだ自分自身のことが分からないようだった。
「ね、僕のことは"新くん"って呼んでよ。大人みたいな言葉、きらい」
「そ、そうだね。今は私がお姉さんだから先輩って呼ばなくてもいいのかな?」
私が『先輩って呼ばなくても』と言ったところで、冬月先輩は私をギロリと睨んだ。
記憶も人格も男子高校生のままの冬月先輩は、子ども扱いされることがよっぽど嫌みたい。
「俺のことはわかってるよな…。鳥居日菜」
小さな姿ですごんでみても可愛いだけです冬月先輩、とは口が裂けても言えなかった。