純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
理由に心当たりはあった。
その前日に父と母が大喧嘩をしていたから。
けど何が起きたか理解できなくて、焦燥も、後悔も、悲哀も湧かなかった。
ただ、ひどく心がざわめいたのを覚えている。
帰宅してすぐに、俺は自分の部屋ではなく、隣の妹の部屋の扉を開けた。
妹は寝間着のままベッドに寝転んで本を読んでいた。
辞書みたいに分厚い、英語の本だった。
「おまえ、今日ずっと家にいたのか」
開口一番にそう尋ねると、妹は本から目を離し、ようやく俺を見た。
「そうだけど」
「その間、父さん帰ってきてないか?」
「帰ってないよ」
「おまえ何時起きたんだ? 昼寝とかしてないか?」
「してない。起きたのは二時」
「寝すぎだろ……」
いつもなら「うるさい」とでも返しそうなものなのに、妹は異変を察知したのか、そうは言わなかった。
「ねえ何? さっきからなんか変」
「いや……」