純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
「あっそ」
と、妹は短く言って、再び本に向き直った。
「おまえ、そんだけ?」
妹がずっと無関心の態度を貫いていたのは、よく知っている。
でも俺は、それは怒鳴り声を遮断していただけで、両親の存在自体を遮断した訳ではないと思っていた。
心の奥では心配くらいしていると、勝手に思っていた。
それなのに。
「引き止めようとか、探そうとか思わねぇの? 父さんに、もう二度と会えないかもしれねぇんだぞ」
妹のあんまりな態度に苛ついて、つい口調が刺々しくなる。
「引き止めて、止まるの?」
妹の返事は早かった。
早くて、聡明な妹らしく、冷静だった。
「探して見つかるの? もう二度と会えないかどうかは、この場合、父さんが決めることよ。父さんは、会いたいと思っていないかもしれないでしょう」
分かったらもう行って。
と、冷たく言われ、俺は何も言えなかった。
胸の内で渦巻いているものはあった。
ざわざわと音を立て続けるそれは、うるさくてたまらないのに、どうしたって言葉にはならなかった。