純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
父さんが消えてひと月経って、母さんはようやく父さんを探すのを諦めた。
最終的に警察に捜索願を出そうとした母さんを、俺が止めたのがきっかけだ。
「もういいだろ。そっとしてあげよう」
そう言うと、母さんは力が抜けたみたいに、リビングの床にぺったりと座り込んで泣き崩れた。
妹はリビングに現れて、冷蔵庫から麦茶を取り出して、自分の部屋に戻った。
――妹は、こんなときでも無視をした。
あれから、五年。
五年の間、この家で父さんの話題は一度も出なかった。
母さんは忘れようとしていたから。
俺は、気まずかったから。
妹は、たぶん、どうでもいいから。
俺は中立地点のまま、妹は無関心のまま、俺たちはこの五年を、何も変わることなく過ごしてきた。
きっと、このままでいいと、誰もが思っている。
一度大きく変わってしまった俺たち家族は、きっともう誰も、これ以上変わることを望んでいない。
でも。