純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
バンッ! と、大きな音が式場に響いた。
扉が勢いよく開かれた音だと認識したのは、一瞬後。
「…………え」
花嫁の小さなつぶやきは、広い式場に一つのさざ波を起こす。
妹の、驚きで大きく見開かれた目の、その視線を追って。
会場のゲストが、次々に後ろを振り返った。
もちろん、俺も、――母さんも。
扉を開けて、そこにたたずむ、背の高いスーツの男。
急いで来たのだろう。肩で息をしていた。
懐かしい、と思ってしまうくらい久しぶりに見た、記憶にあるよりも老けたその顔。
「……父さん…………」
俺の、ため息と判別のつかないつぶやきが聞こえたのか、周りにいた数人が驚いたようにパッと顔を上げて俺を見た。
その視線に少し居心地が悪くなったが、でも、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
カツン、と、ヒールが床を打つ音が聞こえた。
妹が、一歩踏み出したのだ。
そして、カツン、と、もう一歩。
花嫁の顔がくしゃりと歪んだ。
光る雫が一粒落ちた。
組んだ腕を、解いたのは花婿のほうだった。
そしてその腕で、トン、と、花嫁の背を押す。
――花嫁が、走り出した。