純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
笑えるのが、父が母に何も言わずに出て行ったことだ。
何も言わずに、ということはつまり、正式に離婚をしたわけではない、ということで。
父は結局、俺たちを捨てることはできなかった。
母との縁を切ることもできず、親権を失うこともできず、繋がりは切らないままに、父は出て行った。
それが父の弱さであり、優しさでもあった。
父が家を出て、どこに行ったのか俺は知らない。
ただ父は、俺に「出て行く」と、短いメールを送って消えた。
母や妹には何も知らせなかった。
まあ、おおかた実家にでも帰ったんじゃないかと思うけど。
父が俺にだけ言ったのは、おそらくはこの家において、俺が「中立」の立場に立っていたからだと思う。
この家の構図としては、父と母が「敵対」、俺が「中立」。
そして、妹は「無関心」だった。
中立と無関心は、傍目に見て似ているように見えたことだろう。
だが、俺は父母の敵対のすべての原因を知っていた。