純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
対して妹はいつも、父母の喧嘩が始まると自分の部屋にこもり、イヤホンと激しいロックで耳を塞いだ。
妹は、怒鳴り声の恐怖症だった。
そんな病気が正式に医学界で認められているのかどうか、俺は知らない。
けれど妹は確かに、怒鳴り声に対して異常な恐怖心を持っていた。
幼い頃の両親の喧嘩がトラウマになっているのかもしれない。
妹は両親が喧嘩を始めると、大音量の音楽で耳を塞いで怒鳴り声から逃げた。
怒鳴り声が怖いのにロックが好きなのは、永遠の謎だ。
怒鳴り声が怖い妹は、そのせいで、かなりの優等生だった。
先生に怒られたくなくて、宿題も予習復習も穴のないよう完璧にこなした。
結果として小中では学年トップを維持し、高校でも十位以内をキープ、家から最も近い超難関大学を突破した。
妹は、優しいやつだった。
優しくて、冷たくて、聡明で、愚かで、強くて、ひどく弱い。
父によく似た人間だった。
そんな妹が、婚約相手を連れてきたのは、昨日の夜のことだった。