純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
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* * *
「おまえ、あのときさあ、どうでもいいって言ったよな」
ごちゃごちゃうるさい、狭くて暗い居酒屋で、俺はビールを片手にそう言った。
とたん、向かいに座った妹の眉間にしわが寄る。
「どのときよ? いきなりすぎてわかんない」
「父さんが出て行ったとき」
ビールを一口飲んでそう言うと、妹が俺を睨みつけた。
「なに、今さら」
「べつに。ただ、自分の親が別れたのに『どうでもいい』って、かなり性格悪いよな」
「うっさい」
「おまえの旦那っておまえのどこ好きになったんだろうな、って思って」
「は? 余計なお世話」
妹は吐き捨てるように言って、テーブルの上の刺身に箸を伸ばした。
基本的に口が悪くて、もっぱら俺に対しての態度が凶悪な妹だが、美味いものを食べるときと寝ているときは幸せそうな顔をする。
だから、妹の逆鱗に触れそうな話をするときにはいつも、俺は妹を飯に連れ出していた。
もちろん、全部俺の奢りで。