不要なモノは愛
ほんの少しの空間だけど、確かにここからは星が見える。それほど多くは見えないけど、都会の空で星が見えるのは貴重である。


「ほんとだ」


分かっていてもなかなか見上げることのない夜の空。空気が澄んでいるからか、ハッキリと明るい星が見えた。


「クシュン!…」


「ハハッ、寒いな」


マフラーだけでなく手袋も持ってくれば良かったかな。かじかむ手を擦り合わせる。

ギュッ…


「え?あの…」


カバンを持っていない左手を握られて、上を見上げた。いつの間に、こんな近くに来ていたのだろう。見上げた先にあった松野兄の顔の近さに目を見開いてしまう。

手を握られるなんて、小学生の時以来かもしれない。

こういった状況の場合、どうすればいいのだろう。今夜は分からないことばかりだ。


「こうしていれば、少しは暖かいだろ?」


握ってきた手は私に温もりを与えてくれる。でも、有り難く受け入れられない。いつもいつも、なぜかこの男に調子を狂わせられる。

振り切ろうとするのに、強引に引きずり込まれる…そんな感じだ。
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