欲しがりなくちびる
5
朔は、とある住宅街に佇む大きな建築物を見上げて感心したように溜息を吐いていた。

ここは相馬の自宅兼ギャラリーで、渡り廊下で繋がる左右の建物のうち、左側の建物の方のエレベータでギャラリーに降り立った。

「朔さん。お待ちしてましたよ。少し分かり辛いところにあるから、迷いませんでしたか」

相馬はにこやかに言いながら、さっそく館内の案内を始めた。

「それで……? 幼馴染の彼は一緒ではないんですね」

朔が一人で来たことに対して、特に不思議がる様子はなかった。 

「人が描いたものは見ないようにしているからと言って、断られてしまいました。何か、すみません……」

私の方からセッティングをお願いしたようなものなのにと続けると、相馬はカラッと笑う。

「ははっ。いいんですよ、気にしなくて。きっとそうだろうと思ってましたから」

相馬は先を促して、館内の説明の続きを再開する。このギャラリーには、相馬の絵画以外にも彼の父親だという日本画家の大家の作品などが飾られていて、商談やインタビューに応じることができるようにと、モダンな応接間のようなスペースも用意されている。

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