欲しがりなくちびる
「私が見せたかったのは、こっちなんですよ」

美術館と同様に、少し落された照明の中をさらに奥へと案内されると、そこには統一性のない作品たちが飾られていて、朔は若干の違和感を覚える。

「ここは私の教え子たちの作品を集めた場所なんです」

相馬の後に続いて足を進めると、確かに見覚えのあるキャンバスの前で彼は立ち止まる。

「もしかすると、朔さんが言っていた幼馴染というのは、彼のことなんじゃないのかな」

相馬が見つめる先には、浩輔の作品『白い羽の少女』があった。正式なタイトルは、『たたずむ少女』とある。

「どうして……?」

半信半疑で相馬を窺えば、彼は頷く。

「やっぱり、そうでしたか。浩輔君は私が教壇に立っていた頃の教え子なんですよ。彼に絵画教室を任せたのは私です」

「え……?」

朔は驚きとともに再び相馬を見ると、彼は穏やかに微笑んでキャンバスを見つめる。

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