欲しがりなくちびる
「この絵が、浩輔君との出会いのきっかけでした。彼はある日、上手く描けないと言って私にこの絵を見せに来たんです。当時の彼はとても悩んでいました。だから私はアドバイスをしたんです。君のなかの想いが変化しつつあるから上手く描けないのではないかと。だから、新しいキャンバスに一から描いてみなさいと。その絵はあるコンクールで大賞を受賞して、今は彼の母校に寄贈されています」
昔、浩輔の母親が騒いでいたのはそれだった。朔がまだ見たことのないその作品には、一体どのようなものが描かれているのだろう。
「朔さん。二年前に芥川賞を受賞した小説を知っていますか」
「確か、経歴がユニークな男性が書いた、その年のベストセラーになった小説で……」
朔は、普段はあまり小説は読まない方だが、ニュースで大きく取り上げられた為覚えていた。
「そう。実は、あの装丁は浩輔君が手掛けたものなんですよ。彼の絵のファンだと言う人は多くてね。あの淡い色使いは私も好きなんです」
昔、浩輔の母親が騒いでいたのはそれだった。朔がまだ見たことのないその作品には、一体どのようなものが描かれているのだろう。
「朔さん。二年前に芥川賞を受賞した小説を知っていますか」
「確か、経歴がユニークな男性が書いた、その年のベストセラーになった小説で……」
朔は、普段はあまり小説は読まない方だが、ニュースで大きく取り上げられた為覚えていた。
「そう。実は、あの装丁は浩輔君が手掛けたものなんですよ。彼の絵のファンだと言う人は多くてね。あの淡い色使いは私も好きなんです」