欲しがりなくちびる
桜が散り、新緑の季節を向えていた。
朔は今も浩輔のマンションで暮らしている。彼の部屋を出ていく理由がなくなったからだ。
現在の二人はいわゆる恋人同士だが、その関係にきちんとした名称がついたところで、朔も浩輔も何が変わった訳ではない。朔は、相変わらず感情の起伏が乏しい彼の内面を探ることを苦手としていたし、また浩輔もいつかステージ上で見せた営業スマイルや巧みな話術を朔のまえで見せようとは思っていない。
目に見えた進捗はないものの、恋人という安定した響きの言語は二人とも気に入っている。
浩輔は、サラリーマンと絵画教室の二足のわらじを履きながら、たまに依頼を受けて絵画の小さな仕事を引き受けることもあるようだが、やはりその絵は朔には見せてくれない。第二・四土曜日になると、二人は一緒に絵画教室へ向う。
浩輔に淡い恋心を抱いて朔を敵視していた小さな女の子・ミキちゃんは、新しく入ってきたひとつ年上の男の子にあっという間に鞍替えをして、見ている大人が恥ずかしくなるほどあからさまなアピールを続けているが、あの年頃の男子はまだまだ初心で全く気が付いていない。それをいつもやきもきしながら見ているミキちゃん一筋の同級生の男子もまた不器用で、いつも彼女を怒らせては傷ついてという事を繰り返している。
この子供たちが大人になった頃きっと驚くだろう。大人になっても上手に恋愛ができない男女が多いことに呆れて、そういう自分もまた恋愛下手であることに戦くだろう。それでも人間は、いくつ歳を重ねても誰かを愛することをやめられない。それは生きることと同義だから。
朔は今も浩輔のマンションで暮らしている。彼の部屋を出ていく理由がなくなったからだ。
現在の二人はいわゆる恋人同士だが、その関係にきちんとした名称がついたところで、朔も浩輔も何が変わった訳ではない。朔は、相変わらず感情の起伏が乏しい彼の内面を探ることを苦手としていたし、また浩輔もいつかステージ上で見せた営業スマイルや巧みな話術を朔のまえで見せようとは思っていない。
目に見えた進捗はないものの、恋人という安定した響きの言語は二人とも気に入っている。
浩輔は、サラリーマンと絵画教室の二足のわらじを履きながら、たまに依頼を受けて絵画の小さな仕事を引き受けることもあるようだが、やはりその絵は朔には見せてくれない。第二・四土曜日になると、二人は一緒に絵画教室へ向う。
浩輔に淡い恋心を抱いて朔を敵視していた小さな女の子・ミキちゃんは、新しく入ってきたひとつ年上の男の子にあっという間に鞍替えをして、見ている大人が恥ずかしくなるほどあからさまなアピールを続けているが、あの年頃の男子はまだまだ初心で全く気が付いていない。それをいつもやきもきしながら見ているミキちゃん一筋の同級生の男子もまた不器用で、いつも彼女を怒らせては傷ついてという事を繰り返している。
この子供たちが大人になった頃きっと驚くだろう。大人になっても上手に恋愛ができない男女が多いことに呆れて、そういう自分もまた恋愛下手であることに戦くだろう。それでも人間は、いくつ歳を重ねても誰かを愛することをやめられない。それは生きることと同義だから。