欲しがりなくちびる
「――私が絵を描く理由は、今も昔も、たったひとつです。私が筆を持つ先を、まるで魔法でも見ているかのように瞳をきらきらさせて覗き込んでいた彼女の喜ぶ顔が見たい。幼い頃にふと思ったそんなことを心の頼りに学生時代は筆を走らせていました。思春期に入った頃の私は、自分の想いを見透かされるのが怖くなり、もう彼女に見せることはしなくなりましたが……――」
いくらステージ上からとは言っても、会場を埋め尽くすほどの出席者の中から朔を見つけ出すことは難しいだろう。
浩輔は、朔ががここにいることを知らない。
だから、これまで隠し続けてきた想いを受賞の喜びに乗せて吐露しているのだろう。
それは情熱的な愛の告白でもあり、朔の右目からは一筋の涙が零れる。そんな彼女の様子を隣りにいる相馬は温かく見守っている。
朔は、立食パーティーとなった会場を抜け出し、相馬とともに別室に用意された浩輔の絵画展を観て回る。
淡い色使いの風景画は何度観ても、ほぅと溜息が出るほどに綺麗だった。
柔らかくて甘くて、そこだけ穏やかに時が流れている。浩輔の手に掛かれば、どんなに粗暴な物でさえ優しいもの生まれ変わるだろう。
このまま胸に抱き締めてしまいたいと思うほど、浩輔の絵は希望と未来に溢れている。
いくらステージ上からとは言っても、会場を埋め尽くすほどの出席者の中から朔を見つけ出すことは難しいだろう。
浩輔は、朔ががここにいることを知らない。
だから、これまで隠し続けてきた想いを受賞の喜びに乗せて吐露しているのだろう。
それは情熱的な愛の告白でもあり、朔の右目からは一筋の涙が零れる。そんな彼女の様子を隣りにいる相馬は温かく見守っている。
朔は、立食パーティーとなった会場を抜け出し、相馬とともに別室に用意された浩輔の絵画展を観て回る。
淡い色使いの風景画は何度観ても、ほぅと溜息が出るほどに綺麗だった。
柔らかくて甘くて、そこだけ穏やかに時が流れている。浩輔の手に掛かれば、どんなに粗暴な物でさえ優しいもの生まれ変わるだろう。
このまま胸に抱き締めてしまいたいと思うほど、浩輔の絵は希望と未来に溢れている。