欲しがりなくちびる
今回受賞したという作品は、一番奥にそっと飾られていた。
くすんだ金色の額縁に収められたその絵のモデルには、どことなく見覚えがあった。
「気付きましたか? 彼女は朔さん自身がモデルになっているんですよ」
『寄り添う少女』とタイトルされた裸婦は、穏やかな微笑を口元に湛えて横たわっている。
寄り添うとあるけれど、その絵には彼女の存在しか描かれていない。
けれども確かに、もう一人の存在を感じられるほど、その視線は優しい。まるで、目の前にいる誰かの背中に安心して身を委ねているように。
「三部作のこれまでの作品は、どれも中性的だったでしょう。髪は長いけれども、女性なのか男性なのか、人間であるのかそうではないのか曖昧に描かれていたけれど、それは浩輔君が自分と朔さんの姿を投影していたからなんです。でも、この絵は違う。自分と朔さんをきちんと切り離して、一人の女性として、あなただけを想って描いている」
細く柔かそうな髪の隙間から見える胸の谷間の形は実際の朔とは様子が違うけれど、少女が自分だと知られているうえで相馬から絵を見つめられると、恥ずかしいような複雑な感情を覚えてしまう。
けれども、彼はさすがプロであるから、ひとつの作品として観ているようでその視線に嫌らしさはない。
くすんだ金色の額縁に収められたその絵のモデルには、どことなく見覚えがあった。
「気付きましたか? 彼女は朔さん自身がモデルになっているんですよ」
『寄り添う少女』とタイトルされた裸婦は、穏やかな微笑を口元に湛えて横たわっている。
寄り添うとあるけれど、その絵には彼女の存在しか描かれていない。
けれども確かに、もう一人の存在を感じられるほど、その視線は優しい。まるで、目の前にいる誰かの背中に安心して身を委ねているように。
「三部作のこれまでの作品は、どれも中性的だったでしょう。髪は長いけれども、女性なのか男性なのか、人間であるのかそうではないのか曖昧に描かれていたけれど、それは浩輔君が自分と朔さんの姿を投影していたからなんです。でも、この絵は違う。自分と朔さんをきちんと切り離して、一人の女性として、あなただけを想って描いている」
細く柔かそうな髪の隙間から見える胸の谷間の形は実際の朔とは様子が違うけれど、少女が自分だと知られているうえで相馬から絵を見つめられると、恥ずかしいような複雑な感情を覚えてしまう。
けれども、彼はさすがプロであるから、ひとつの作品として観ているようでその視線に嫌らしさはない。