欲しがりなくちびる
「暢?」
背の高いフロアライトが真っ白なクロス壁をぼんやり照らす薄暗い間接照明のせいで、目が慣れるまで時間がかかった。
始め大きな塊に見えたその影は、一瞬にして二つに別れた。
影の一方は、緩やかなカーブを描いている。
「――朔っ?!」
振り向きざまに身体を強張らせた暢が、はっと息を飲み込む音が聞こえた。
「朔っ、違うんだっ! これはっ」
必死に弁解する暢の顔が、情事の余韻かはたまた焦りで高揚しているように見えたのは、いくら薄明かりとはいえ錯覚ではないと思う。
自分の心が震えている事に朔は気付く。
その振動は今にも全身に行き渡ろうとしていたけれど、きゅっと下唇を噛み締めて、震える指先を隠すようにしっかり拳を握る。その手で真横にある照明のスイッチをドンと音を立てて叩く。眩しさに瞬きした次の瞬間、室内が映し出された。
今、初めてはっきりと目の前に現れた暢は、これまで抱き合っていた女を放って自分はボクサーパンツを腰の位置まで上げ終わったところだった。温厚でめったなことでは動じない彼は余程慌てているのか、幅広のゴムが捩れていることに気が付かない。
背の高いフロアライトが真っ白なクロス壁をぼんやり照らす薄暗い間接照明のせいで、目が慣れるまで時間がかかった。
始め大きな塊に見えたその影は、一瞬にして二つに別れた。
影の一方は、緩やかなカーブを描いている。
「――朔っ?!」
振り向きざまに身体を強張らせた暢が、はっと息を飲み込む音が聞こえた。
「朔っ、違うんだっ! これはっ」
必死に弁解する暢の顔が、情事の余韻かはたまた焦りで高揚しているように見えたのは、いくら薄明かりとはいえ錯覚ではないと思う。
自分の心が震えている事に朔は気付く。
その振動は今にも全身に行き渡ろうとしていたけれど、きゅっと下唇を噛み締めて、震える指先を隠すようにしっかり拳を握る。その手で真横にある照明のスイッチをドンと音を立てて叩く。眩しさに瞬きした次の瞬間、室内が映し出された。
今、初めてはっきりと目の前に現れた暢は、これまで抱き合っていた女を放って自分はボクサーパンツを腰の位置まで上げ終わったところだった。温厚でめったなことでは動じない彼は余程慌てているのか、幅広のゴムが捩れていることに気が付かない。