欲しがりなくちびる
鞄から携帯電話を取り出して、今夜の宿泊先を確保する為に片っ端からアドレスを呼び出す。
巷からは晩婚化を問題視する声が聞こえているが、朔の周辺はどういう訳か結婚が早くて、いくら気心知れてるからといって一家団欒に転がり込むような図太さは持ち合わせていない。とはいえ、独身宅を頼っては朝まで根掘り葉掘り詮索されるのも目に見えていた。けれども、片道1時間の実家を思えば、寝たふりしてやり過ごす方が利口だ。
2週間前に電話で話した時にはシングルだったはずの高校時代からの友人である和歌子には、彼氏が来ているからと断られた。つい先月、元彼に振られた腹いせから朔の部屋でやけ酒を飲んで散らかし放題で帰っていった彼女は、彼氏ができた途端この変わり様。
「結局、最後に私の隣にいてくれるのは朔だけだよ」
と、いつものお決まりの台詞に甲斐甲斐しく世話してやった自分が情けなくなり、朔は内心で深い溜息を吐く。男と別れる度にとぐろを巻いて絡んでは、どすの利いた声で愚痴を溢していた彼女からは想像もできないほどの甘ったるい声で電話口に出られた時点で早々に切れば良かった。
和歌子の向こう側から、低い男の声で慣れたように彼女を呼ぶ声を聞いたときには、それまでどこか肩肘張っていた身体からすとんと力が抜けて、朔はさすがに泣きそうになった。
けれども、彼の声が聞こえてきたおかげで、まだ最後の砦がいたことを思い出していた。
巷からは晩婚化を問題視する声が聞こえているが、朔の周辺はどういう訳か結婚が早くて、いくら気心知れてるからといって一家団欒に転がり込むような図太さは持ち合わせていない。とはいえ、独身宅を頼っては朝まで根掘り葉掘り詮索されるのも目に見えていた。けれども、片道1時間の実家を思えば、寝たふりしてやり過ごす方が利口だ。
2週間前に電話で話した時にはシングルだったはずの高校時代からの友人である和歌子には、彼氏が来ているからと断られた。つい先月、元彼に振られた腹いせから朔の部屋でやけ酒を飲んで散らかし放題で帰っていった彼女は、彼氏ができた途端この変わり様。
「結局、最後に私の隣にいてくれるのは朔だけだよ」
と、いつものお決まりの台詞に甲斐甲斐しく世話してやった自分が情けなくなり、朔は内心で深い溜息を吐く。男と別れる度にとぐろを巻いて絡んでは、どすの利いた声で愚痴を溢していた彼女からは想像もできないほどの甘ったるい声で電話口に出られた時点で早々に切れば良かった。
和歌子の向こう側から、低い男の声で慣れたように彼女を呼ぶ声を聞いたときには、それまでどこか肩肘張っていた身体からすとんと力が抜けて、朔はさすがに泣きそうになった。
けれども、彼の声が聞こえてきたおかげで、まだ最後の砦がいたことを思い出していた。