欲しがりなくちびる
久し振りに聞くその声は相変わらず不機嫌そうだった。
「久し振り、浩輔。今ちょっといい?」
「ぁあ? っていうか、ムリだから」
彼はなんの躊躇いもなく言うと、朔が引き留める間もなく難なく電話を切った。思わず呆気にとられたのも束の間、朔はすかさずリダイヤルを押す。味気ないコール音を響かせる携帯をイライラと爪で弾いていると、ぷつりと止んだ電子音の向こうから小さな溜息が聞こえてきた。
「ちょっと浩輔、なんで切んのよ? 久し振りの電話なんだから、もっと愛想良くしてくれたっていいでしょ?」
「何言ってんだよ。おまえからの連絡なんて、いつもろくでもないことばっかじゃねーか」
怪訝に返事する浩輔に噛み付けば、今度は盛大な溜息が返ってくる。
過去を振り返ってみれば確かに浩輔の言う通りではあるが、今回ばかりは引き下がることはできない。そうは思ってみたものの、お金さえ出せばビジネスホテルやネットカフェなど一晩過ごせる場所なんて、ネット検索で幾らでも探せる。
「――で? どうしたんだよ。用がないなら切るぞ」
急に勢いを失くした朔を怪訝に思ったのか、浩輔が電話越しに窺い出す。なんだかんだ言っても、結局はこうして気に掛けてくれるなら始めから優しい言葉を選べばいいのに昔からこうだと、朔は少しだけ頬を膨らませる。
「……朔? なんかあったのか?」
浩輔の声色に朔を気遣う憂いが潜み始めている事に気付き、膨らませた頬から吐息交じりに小さく微笑む。朔は、彼が最後はいつも彼女に甘いという事を知っている。
「久し振り、浩輔。今ちょっといい?」
「ぁあ? っていうか、ムリだから」
彼はなんの躊躇いもなく言うと、朔が引き留める間もなく難なく電話を切った。思わず呆気にとられたのも束の間、朔はすかさずリダイヤルを押す。味気ないコール音を響かせる携帯をイライラと爪で弾いていると、ぷつりと止んだ電子音の向こうから小さな溜息が聞こえてきた。
「ちょっと浩輔、なんで切んのよ? 久し振りの電話なんだから、もっと愛想良くしてくれたっていいでしょ?」
「何言ってんだよ。おまえからの連絡なんて、いつもろくでもないことばっかじゃねーか」
怪訝に返事する浩輔に噛み付けば、今度は盛大な溜息が返ってくる。
過去を振り返ってみれば確かに浩輔の言う通りではあるが、今回ばかりは引き下がることはできない。そうは思ってみたものの、お金さえ出せばビジネスホテルやネットカフェなど一晩過ごせる場所なんて、ネット検索で幾らでも探せる。
「――で? どうしたんだよ。用がないなら切るぞ」
急に勢いを失くした朔を怪訝に思ったのか、浩輔が電話越しに窺い出す。なんだかんだ言っても、結局はこうして気に掛けてくれるなら始めから優しい言葉を選べばいいのに昔からこうだと、朔は少しだけ頬を膨らませる。
「……朔? なんかあったのか?」
浩輔の声色に朔を気遣う憂いが潜み始めている事に気付き、膨らませた頬から吐息交じりに小さく微笑む。朔は、彼が最後はいつも彼女に甘いという事を知っている。