ビターチョコレート。
俺の家は一戸建てだが、一人で住むには少し広すぎるくらいだ。
着くなり彼女は唖然とした表情で家を眺めていた。
きっと俺を少し金持ちか何かと勘違いでもしたんだろう。
そんな彼女を俺は早く中に入るように促した。
「早く入ってくれ。それとも庭で野宿でもするか?」
「ごめんなさい」
家に上がらせれば、珍しいものを見るような輝かしい目で辺りを見回している。
確かに銃とかナイフとか飾ってあるけどよ...
「あの、こんな家ドラマとかテレビの中だけだと思ってました。」
「だろうな。普通にあったら頭おかしいと思われるぞ」
俺は彼女に返事をしながら冷蔵庫からグラスとワインを取り出した。
「お前ワイン飲むか?」
「え、あ...いいんですか?」
「何か飲めば少し落ち着くだろ」
「ありがとうございます。」
「あ、ああ。」
目の前で殺しを見せたことに対しての侘びのつもりで少しは面倒みてやってもいいかと思った。
けど、あまりに普通に接してくるから調子が狂う。
グラスにワインを注ぎ手渡せば躊躇うこともせず、素直に口にしている。
普通人を殺すような奴から何か渡されれば多少は警戒するだろう。なのにコイツは...
「このワインすごく美味しいですね」
「ああ。だいぶ年代物だからな。普通に売りに出してもそれなりの値が付くぜ。」
「へえ...」
やっぱり調子が狂う。なんだ、危機感とかねえのか?
「お前、俺が怖くないのか?」
「怖くないと言ったら嘘になりますけど、でも助けてくれたから悪い人ではないのかと」
コイツ危機感がないんじゃなくて、バカなんだ。
「バカかお前は。俺が人を助けるようなことをする理由は何かしら裏があるからだ。
それぐらい分かれ。」
「私お金になるような物は持ってないですし...あ、臓器とか?」
「お前それでいいのか?」
「え?いや、だって...」
お前本当に臓器売られていいのか?
全身裁くぞこら。と思いつつ口にはしない。
「別に取って食おうなんてしてねえよ。
人身売買も臓器売買も専門外だ。奴隷として売るのはあるけどな」
「奴隷...」
「だが、売ったところで俺は何の得もしない。」
「はあ...」
「お前薬中する気あるか?」
「え?するって?」
「あ?セックスだよ。」
「せっく...す?」
「まさかしたことないのか?」
「はい」
「ちっ...使えねえな」
「ええ!?」
経験ない奴とやるなんて面倒だ。
くそ、何の役にも立たねえじゃねえか。
「あ、あの...ご飯とか作るとかならできますけど」
「は?」
飯?飯をまとも食ってたのはもう昔の話だ。
今はもう錠剤だの、注射だのしかしてねえや。
飯を食う時間ですら勿体無い。
「まあ、この家にキッチンはあるが食材なんてねえぞ」
「買ってきます」
「...そうか。まあ日が登ってからでいいだろ。
一応俺も着いてくからそれまで寝とけ。」
「え、あ...はい。
あの、どこで寝れば?」
「適当に寝てくれ。
そこのドア開ければベッドもあるから」
「は、はい」
右側にあるドアを指差しながら言えば、素直にドアを開いて暗闇の中に消えていった。
ドアが閉まる音を聞くと同時に思わずため息が零れた。
「なんで俺あんなバカ助けたんだ?
俺に関わればすぐに裏に情報流れて危険に晒されるってのに...」
グラスに注いだワインを一気に飲み干して、ソファに転がった。
そして目を瞑れば、すぐに眠気が襲ってきたから大人しくそれに従った。