わたしはあなたを、忘れない
1drop.

好きだということ





いつも通りの朝。


いつも通りの光景。




「今日遊ぼうよ」




「あたしも!行きたい!」




「じゃあみんなで行けばいいだろ」





教室の真ん中で、


男と女が群がって、


放課後の予定を立てている。




「いいなあ、行きたい」




「行って来たら?」





私の隣にいる咲も、


その中に混じりたそうに


指をくわえている。





「結子は?行かない?」




「行かない。興味ないもん」





なんて言ってみると、


私のことをすっかり忘れたように、


きゃっきゃはしゃいで、


咲も混ざりに行く。


そんな咲を羨ましそうに見る私。


鈴原 結子。高校生2年1組。


これといってとりえもないし、


唯一の友だちっていうのも別にいない。


だからって友だちがいないわけでもなく、


みんなとまんべんなく接している。





「鈴原、日誌出しに来い」





「今行きまーす」





放課後になれば、


教室の真ん中にまた群れが出来る。





「結子、本当に行かないの?」




「私、雑用があるから」





そう言い残して教室を出る。


失礼しました、と日誌を出し終え、


ちらりと教室を覗いてみる。


別に期待してたわけじゃない。


だけど。





「いるわけないか…」





友だちも誰も待ってはいない。


別に期待してたわけじゃない。


きっと咲だって、他の子だって、


今頃楽しんでるに違いない。


私には、絶対に出来ないことがある。





「翔琉、飯行こうぜ」




「おう」




私のクラスに出来る群れの中心に、


椎名 翔琉という男がいる。


椎名くんは、学校内で結構有名な人。


喧嘩は強いし、女たらしだし、


悪い人とつるんでる。


そんな噂でいっぱいの人。


いつもたくさんの友だちといて、


楽しそうに笑っている。


身長も高いし、顔もかっこよくて、


性格もいいから、男女構わずみんなに


人気があったりもする。


だけど。


他の人には優しくても、


私だけは違う。


笑ってくれたこともないし、


話したこともそんなにない。


私の存在なんてきっと認識してないし、


触れてもくれない。


きっと嫌われている。


だけど。


それでも私は、


椎名くんが好きで仕方ない。






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