わたしはあなたを、忘れない





そして遠足当日。




「お母さんっ!何で起こしてくれないの!」




「あら、何度も起こしましたよ」




時計に目をやれば、


集合時間の30分前。


学校まで家から10分。





「結子、朝ご飯は?」




「いらないっ!いってきます」





いつも40分かけて支度するのに、


今日は15分で済ませる。


朝ご飯なんて、食べてる暇はない。





「早瀬さんっ…!」




校門で待ち合わせていた


早瀬さんを見つめると、


大声で名前を呼んだ。


よかった、間に合った。






「おはよう、鈴原さん」





「ごめんね、遅くなって」





「大丈夫だよ、まだ5分前だし」





息を切らしながら、


集合場所に向かった。


ほぼ全員集まっていて、


みんなウキウキ状態。






「班ごとに整列しろー」






学年主任の掛け声で、


クラスごとに、班ごとに、


それぞれ整列し始めた。





「あ、椎名くん」





早瀬さんが見つけ、


私も一緒にその方向を見る。


誰よりも輝いて見える、


彼のそばには。






「いつも人で…いっぱいだね」





男女共に、


たくさんの人で溢れていた。






「鈴原さん?」





「…あ、ごめん。い、池上くんまだかな?」






羨ましく思う。


椎名くんと一緒に、


笑ってすごせることが。


私には到底叶わないこと。


そんなことはもう、


とっくに分かっていた。






「バスに乗り込めー」






いつの間にか、


私と早瀬さんの後ろに並んでいた、


椎名くんと池上くん。


班ごとと促され、


端から順番にバスに乗っていく。






「あ、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」





そう言って、早瀬さんは


列から抜けて校舎に入っていく。


ま、いいか。


隣を開けておけば、


後から来ても分かるよね。





「よいしょっと」





あー、朝ご飯食べてこなかったから、


すっごくお腹空いたな。


おやつに持ってきたお菓子、


食べてもいいかな。


でも迷惑かな。


なんて思いながら、


かばんの中を探っていると。


誰かが隣に、どっしり腰を、下ろした。


早瀬さん、あんなに小さくて、


大人しい女の子なのに。


そんな座り方…





「早かったね、早瀬さ……」





ぐっと息を呑んだ。


驚いて声が出せなくなった。





「するめ…」





だって、隣に座ったのは。


早瀬さんじゃないから。


そこにいるのは。


椎名くんだったから。










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