わたしはあなたを、忘れない





体が宙に浮いて。





「じっとしてろ」




なぜか私は。


どうしてか私は。





「何で…」




椎名くんに、


抱きかかえられていた。





「椎名くんっ…、何で…」




「早瀬、こいつの靴、持って来い」





分かったと小晴は、


私の靴がある方向に向かう。


椎名くんは私を抱え、


バスの方向まで歩いていく。





「お前、痛い時は素直に痛いって言えよ」




「椎名くん…海にいたの?」




「向こう側にな。気付けよ」





やばい、これは。


泣きそうだ。


椎名くんが私を、


助けてくれるなんて。






「痛むか?」




「痛くない」




「正直に言えよ」




「少し……痛い」





椎名くんは、軽く返事すると、


バスのある場所の手前で方向を変え、


近くにある公園に入った。





「ちょっとここで座ってろ」





椎名くんは、


私の返事も聞かずに


どこかへ走って行った。


数分して、すぐに戻ってきた


椎名くんの手には、


小さなビニール袋。






「コンビニって、便利だな」






帰って来て早々、そう言うと。


袋の中からガーゼと消毒液。


それから大きな絆創膏と、


足首を冷やすための湿布を


取り出して。





「我慢しろ」





そう言って、洗うためにと


買ってきてくれた水を、


勢いよく私の足にかける。






「椎名くん…」




「待て、すぐ終わる」





痛さが我慢が出来ないんじゃない。


辛いわけでもない。


ただ、彼の。


椎名くんの名前が、


呼びたくなっただけ。


嬉しさと恥ずかしさ、


それに少しの驚きが混ざって。





「…ありが、と」





不本意ながらも、


泣いてしまった。


朝といい、今といい、


椎名くんが私を見てくれている。


いつもないことなだけに、


感情が入り乱れる。






「泣いてんのか」




「泣いてない…」




「痛かったんだろ。我慢すんな」





不器用な優しさが、


私には痛いほど伝わった。






「はい、終わり」





足首には湿布が張られていて、


足の裏には大きな絆創膏が


張ってある。







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