わたしはあなたを、忘れない




「し、椎名くん…先生たち、来ちゃ…」




瞬間。


私の目の前は真っ暗になった。


気付けば、私は、


椎名くんにすっぽり隠されていて。





「ししし…椎名く、」




「黙れ」




自販機に背中を向け、


私を隠すように抱きしめてくれていて。


言葉を発する度に、耳元に


吐息がかかる。


お風呂上がりのにおいがして。






「鈴原」




「え?」





先生たちがそこにいるのに。


椎名くんは私の名前を呼ぶ。


くすぐったくて、少し身をよじると。






「今度さ」





椎名くんはそう言いかけて。


何でもないと、言葉を止めた。






「椎名、くん?」





ふと顔を上げると。


すぐ近くの距離に彼を顔があって。





「ばっか、顔上げんな」





バレんだろ。


そう言って、くすっと笑った。


私はもう幸せすぎて、


先生にバレても後悔しないと思った。






「鈴原、よく聞け」




「ん?」




「俺が今から出て行くから、その隙に部屋に戻れ」






ほら、出た。


そうやって自分を悪くして、


人を守ろうとする。


間近で見るそれを、


こんな状況なのにドキドキする。






「いいよ、そんなの。私も怒られ…」




「いいから。また明日な」





椎名くんはそう言うと、


軽く私の髪を撫で。





「うわ、先生…帰ってきたのかよ」




「椎名!お前、こんな所で何してんだ!」




「別に何でもいいだろ」





私を自販機の陰に隠し、


自ら先生に絡み、上手に


その場から去って行ってくれた。





「結子ちゃん!」




「あ…小晴…」





部屋に戻ると、


私の帰りを待っていたのか、


小晴が部屋の外で待っていてくれた。





「もうみんな寝ちゃって」




「本当だ。ぐっすりだね」





一緒に部屋に入ると、


さっきまではしゃいでいた女子は、


それぞれの布団で眠っていた。


私は窓際にあるイスに腰を下ろす。






「結子ちゃん…変な事聞いていい?」




「ん?」




「椎名くんのこと、好きなの?」





少し動揺した。


今まで誰にも言ってなくて。


それにさっきまで一緒にいたから。


だから、その…。





「どうして?」




「もしかして、2人って付き合ってる?」




「まさか。そんなわけ…」




なぜか小晴は不安そうな顔をして。


色々聞いてごめんと謝った。





「小晴…何で謝るの」




「結子ちゃんが悩んでるなら力になりたいと思って…」





きっと内緒にされてると、


思ってるんじゃないかって。


私は椎名くんが好きだと、打ち明けた。




< 19 / 23 >

この作品をシェア

pagetop