わたしはあなたを、忘れない
「鈴原」
「はい?」
「ちょっと椎名呼んできて」
遠足が終わって、
いつもの生活に戻って。
あの後、心底心配した椎名くんは、
上手に先生と話して、
何事もなく2日目を迎えていた。
だけど、2日目に自由行動がなく、
椎名くんを言葉を交わすことが
ないまま、遠足は終わり。
「あ…の、椎名くん」
私と椎名くんはというと。
「何?」
「先生が…職員室に来いって」
あれ以来。
遠足以来、いつもの2人に。
何も話さない関係に、
戻ってしまっていた。
椎名くんは、返事もすることなく、
立ち上がって教室を出ていく。
「結子ちゃん…大丈夫?」
「ん?何が?」
小晴が私に声をかけてくれる。
悲しい顔は見せたりしない。
遠足の2日間は、
きっと夢だった。
「小晴、今日どっか寄って行こうよ!」
「うん…そうだね」
遠足のバスでのことだって、
怪我をした時のことだって、
自販機で抱きしめて守ってくれた
ことだって、全部。
同じ班だったから。
義務感で、話してくれた。
ただそれだけ。
私と椎名くんは、
今までに戻っただけ。
ただそれだけなんだから。
本当は辛いなんてもんじゃない。
悲しいなんかで終われない。
だけど。
近付くことすら許されない。
だって私は、
椎名くんに嫌われているから。
「ここってさ、どうするんだったっけ……?」
「あ~、それ先生何か言ってたよね…」
12月に入って、1週目の放課後。
私と小晴は委員の仕事をするため、
教室に居残り。
「聞きに行く?」
なんて話し合っていると。
「……あ、」
教室に入ってきた椎名くん。
視界に入った瞬間、
思わず声をあげてしまう私。
なぜか椎名くんは、
体操服を着ていて。
何か話しかけてみようかな。
なんて思っていると。
「何やってんの?」
椎名くんから話しかけてくれた。
けれど、それは私に向けてじゃなく、
明らかに小晴の顔を見て話していて。
「あ、委員の仕事。結子ちゃんに手伝ってもらってて…」
本当に、自然に、
椎名くんは私を見ようとしない。
だから私も、怖くて、
あえて彼を視界に入れない。
「椎名くんは何してたの?」
「体育館でちょっとバスケしてた」
教室の中で、
小晴と椎名くんの会話が続く。
私はただ、机とにらめっこ。