わたしはあなたを、忘れない
「今度早瀬も来いよ」
「私はいいよ。バスケ苦手」
「下手でもいいだろ。みんなと仲良くなれるぞ」
「私はいいから、結子ちゃん連れてってあげてよ」
小晴は気を遣って、
私の名前を出した。
「あ、私っ、結構バスケ…」
必死に言葉を出した。
何を話せば、椎名くんが
私を見てくれるんだろうって。
だけど椎名くんは。
「好きにすれば」
そう言うだけで、
一切私を見ようとしなかった。
「じゃ、帰るわ」
椎名くんはかばんを持つと、
そのまま教室を出て行った。
「………」
小晴は少し気まずそうにしてか、
しんみりしているように見えて。
「あー、何かごめんね。しんみりさせちゃって」
「ううん、そんなことは…」
本当は分かってる。
分かってるの。
「……ごめ、小晴…っ、」
椎名くんに嫌われてるの、
知ってるから。
だから別に、何も望んでない。
「結子ちゃん、好きなんだよね…、椎名くんのこと」
少し話せたらそれでいいの。
姿を見られたらそれでいいの。
「好きなの…」
私の口から出る、
彼への想いは。
「結子ちゃん…」
絶対に届くことはない。
伝える勇気もない私は、
ただ1人で苦しむしか出来なかった。