わたしはあなたを、忘れない
「友だちが…行こうって、誘ってくれて…」
言い訳じみたことを口走る。
すると椎名くんは。
「でも来るのは自分で決めたんだろ?」
厳しい一言を言った。
そうだ。
来るって決めたのは、
間違いなく私だ。
「それを人のせいにしてんじゃねーよ、最低だろそれ」
この上なくめんどくさそうにして。
椎名くんは部屋に帰って行った。
私はしばらくその場から動けなくて。
「…分かってる」
私はちゃんと分かってる。
椎名くんの言ってることは正しい。
みんな楽しんでるのに、
私だけ中に入れてないし。
入ろうともしてなかったし。
第一、今日来たのだって、
自分で行こうと思って来たんだし。
「あ、結子おかえりー」
「ごめん、私先に帰るね」
私はみんなの元へ帰ると、
自分の鞄を持って帰ることを告げた。
「え、帰っちゃうの?」
「うん、お家の用事思い出しちゃって」
そう言って少しお金を置いて、
笑顔で部屋を出た。
私は外に出てから、
家まで止まることなく
走った。
分かってた。
目の前に椎名くんがいたとしても、
優しくも笑いかけもしてくれないこと。
「分か……って、る」
私の名前を呼んでくれることも、
大丈夫かって、触れることも。
してくれないのは、分かってる。
だけど。
「はぁ……はぁ…」
息を切らしながら。
頭に浮かぶのは。
私が歌ってないことを、
少しでも椎名くんが知ってて
くれたこととか。
邪魔だと言われたとしても、
それでも少し話せたこととか。
そんな些細なことなのに。
心が浮き上がるくらい、
嬉しくて仕方ないの。
嫌われているなんて。
そんなの分かってる。
分かってることだらけだけど。
それでもやっぱり、
私が椎名くんを好きなことも、
分かり切ってることなの。